ヒガンバナを見ると思い出す絵本があります。安野光雅さんの、小人の子どもとそのお母さんが野の花の中でお話しをしている絵本です。「野の花と小人たち」です。安野光雅さんがそれぞれの花に関するエッセイを書かれています。
ひがんばな 安野光雅 野の花と小人たち
毛布が二枚、靴下一パイの米と一にぎりの砂糖をもらって復員し、ようやく両親の疎開した、いなかにたどりつこうとしていた。日本は負けた。そして私は、あの冷酷きわまりない軍隊から解放された。
野間宏のかくように、兵隊は人間ではなかった。人間からつくった史上例を見ない生き物であった。 いなかへ帰るこの道をゆくことは、抜けがらのような兵隊から、少しずつ人間にかえろうとしていることでもあった。
何のうたがいも持たず、まったく当然のように老いた父母のもとへかえる……その道一面に彼岸花が咲いていた。
その、なんとやけつくような「赤い」花であったことか。ぶたれても泣かなかった私なのに涙が出た。
花など、長い長い間、思っても見なかった。それを美しいと思う、人の心を、私はこの花がとりかえしてくれたのだと思っている。